■世界はまだまだ広い?
このゲームをしていて、しばしば目にするのが「本島」という表記です。ジュリオンの祖国であり、輪廻の闇が封じられた旧王都のある島が本島で、その他は出立地であるモル島をはじめ、イワ島、ナバモ島といった小さな島々が点在しています。
ところが、メニューの「雪世界の記憶」からアイテムや地理の説明を見ていると、「王国は他の大陸からの入植者たちによって樹立された」だの「仮面の一族は渡来民族の可能性」だの「大陸に存在した古国から伝わる製法で鍛えた剣」だのという表記がチラホラと見受けられるのです。
また、輪廻の闇を倒した後、クオンも「各国が競って人間に魔力を戻す方法を研究した」と発言していますね。そう、この世界には本島の他に大陸があり、ジュリオンの故郷以外の国もある(あった)はずなのです。
加えて、飛空艇を手に入れてから飛び回ればわかるのですが、この雪世界は一周していません。本島と周辺諸島を囲む見えない壁があり、進もうとしても阻まれる。まるで、その他の世界から断絶された箱庭世界であるかのように。後述するセーブポイントの設定から考えても、単に「ゲームとして行けない・行く必要がないから謎バリアが張ってある」とは考えにくいです。
これは度重なる時間の巻き戻しによっておきた時空の歪みなのか、それともユーテスの二重の結界なのか。理由はわかりませんが、どうも今回の物語の舞台は「本来の世界から切り取られた一部分」のように思えてなりません。
■セーブポイントの設定
多くのRPGで、セーブポイントとは世界にそぐわない存在です。宿帳や日記に記録するのではない場合、フィールドや町中に脈絡なく存在し、たいていは光を放っています。そんな謎物体があってもゲーム内の住人は誰も気にかけていなかったり、最初に「これはセーブポイントよ」とメタ的発言をしてきたり。このように、セーブポイントは明らかに「プレイヤーのためのもの」「ゲームシステムの一部」として扱われており、私たちも疑問なくそれを受け入れています。見えているのに、見えない存在。今作はそうしたセーブポイントの特性をうまく利用し、物語の根幹にガッツリと組み込んできました。
ご丁寧に、導入部でセーブポイントについて「これは何だ?」と尋ねる選択肢さえ出ます。その問いに対するキトの答えは、「なんのことだ?」。これで、私たちは「プレイヤーにしか見えないゲームシステムの一部」という思いを強くするでしょう。「なんでもない」を選んだプレイヤーも、「いやいや、セーブポイントってわかってるから」くらいに思ったのではないでしょうか。私も、「それはこれまでの記憶を残してくれる不思議な魔方陣じゃ」とか言われるのがあまり好きでないので、スルーしました。
…からの、ラスボス戦後に明かされる真実です。プレイヤーがセーブポイントとして利用していたものは、実はユーテスが何度も何度も時間を巻き戻す魔法を使った痕跡でした。しかも、物語内ではエンドとセツナにしか見えていない。ボス戦の前にセーブポイントがあるなんて当然のように思っていましたが、この設定を知った後では「ああ、ここで負けて旅が終わったことが何度もあるんだなあ」と感慨深くなりました。
セーブポイントをゲーム内の物語に絡める手法は、今でこそ「目新しい」とまでは言えないカラクリかもしれません。けれど、「時を巻き戻せる」という点、「ボス戦の前にありがち」という点でゲームシステムとしてのセーブポイントとも性質が一致しており、この仕掛けを考えた方は見事だなと思います。
「セーブポイントが意味を持つゲーム」に私が初めて出会ったのは、スクウェアの某RPGでした。当時中学生だった私は、何も考えずにシステムとしてセーブポイントを利用しまくり、それによって主人公のデータが敵にわたっていたと知らされた時は鳥肌が立つほどの衝撃を受けました。あの部屋は今でも忘れられません。大人になり、様々なゲームを経験した今では「初体験の驚き」も減っていくばかりですが、「いけにえと雪のセツナ」をプレイした現代の中学生が、この仕掛けに驚いたり感心したりしてくれているといいなあ。
全然、書き終わる気配がないんです。(5)に続きます。