水の器: ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(5) ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(5) - 水の器

2023年1月26日木曜日

ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(5)

■プロジェクト凍結のお知らせ(事実)

【概要】

かつてレーベンエルベによって立案・遂行され、途上で凍結された「寓話(ぐうわ)製造プロジェクト」についての文書。

プロジェクトの内容は、地球の楽園が滅んでしまった原因を寓話にして、リガイアの新人類(アベル)に広めようというもの。寓話とは、教訓として伝えたい内容を盛り込んだ物語のことです。「ウサギとカメ」「北風と太陽」等で知られるイソップ物語が有名な例ですね。


これをアベルの幼児期に刷り込み、同じ悲劇を生まないようにという目論見だったようです。しかし、不適切な情報開示のリスクが高いと判断されたために凍結されてしまいました。具体的な処置として、人工知能ソフィアの凍結が記されています。


【他の書物やストーリーとあわせて推測できること】

・貴重品『楽園の終わり』→同プロジェクトのためにつくられた寓話

・貴重品『楽園の遺書の断片』→上記寓話の基になった「楽園の遺書」の部分的な記録

・人工知能ソフィア→季石教団のマザー


【思考】

レーベンエルベによる報告文書なので、書かれている内容は事実と考えます。これを読むと、別の貴重品『楽園の終わり』がどのような背景をもった文書なのかを知ることができます。要はアベルの潜在意識に教訓を植え付けるためのつくり話なのですが、さすがレーベンエルベたちらしく、寓話を”創作”ではなく”製造”と呼称しているところが細かくて良いですね。

※つくり話とはいっても、楽園が滅んだ原因だけは事実に基づいています。それこそが教訓であるため。


プロジェクト凍結のお知らせ』に登場する人工知能ソフィアは、おそらく季石教団のマザー・ソフィアと同個体でしょう。レーベンエルベは識別名に同じものを使わなそうだから…だけでなく、このソフィアの製造したであろう『楽園の終わり』が、地球(ロストガイア)でも月の揺りかごでもなくリガイアで手に入るからです。


それにしても、軌道上からあの大きさのものが落ちるってなかなかの大事故だと思うのですが。その地にアベルも住んでいたようですし。落下の衝撃で凍結処置が解けたらしきソフィアが自己判断で経典をつくり、それなりの求心力をもつ組織ができてしまっているのに回収もせず放置なのは何なのでしょうね。


だってレーベンエルベとしては王権統治をやっているので、教団などという別権威が生まれるのはまずいじゃないですか。(モノケロスはたぶんそんな感じで動いてましたよね。)開示を止めると決定された『楽園の終わり』がアベルに読まれてしまっているどころか、内情をすごく喋るソフィアの存在そのものが不適切な情報開示になっているのに、何の対応もしていなかったようなのが不思議でなりません。


もしかしてレーベンエルベって、不慮の事故の対応にめちゃくちゃ弱いのでしょうか。アリアのポッドがレーテ間近に落ちた直後も、調査や回収に来ませんでしたね。ルイス城通信で「あれ何でもないんで」って書けば終わりみたいなのは適当仕事すぎてちょっと笑ってしまいます。それだけアベルをうまく飼えてるってことかもしれませんけれど…。


■楽園の遺書の断片(事実)

【概要】

第十二の楽園が崩壊した原因と経緯の報告

●崩壊原因:反復するクローンによる種の保存の研究

●経緯:自己同一性の担保ができず住民の自我が崩壊した

レーベンエルベの監視員は、このような事態が継続しないよう経過を観察すること


他の書物とあわせて推測できること

・寓話『楽園の終わり 十二篇『増殖』』の基となった文書である


【思考】

「楽園の遺書」は、地球の楽園の始まりから終わりまで、すべてを記述する叙事プログラムです。改鼠されないようAAAのプロテクトがほどこされているため、記述内容に誤謬はないと断言されていました。よって、この断片に書かれていることはすべて事実と考えます。


第十二の楽園が崩壊した経緯は書かれている通りで、思考の余地がありません。しかし、崩壊原因には少し気になる点があります。地球の楽園で、「種の保存の研究」がなされていたことについてです。以前のポストと重なる点もありますが、改めて思考を整理したいと思います。


アリア父が「種の保存はレーベンエルベに委ねられた」というボイスログを残したのは、星核螺旋研究所が放棄されると決まった時でした。星核螺旋研究所は、レッドクイーンと中にある星核、星のDNAを研究していた場所。一番の研究目的はガイアダストの無効化だったと思われます。


この研究所を放棄する=人類はガイアダストの克服を諦めた→ではどうする→地球楽園構想、という時系列だと考えているので、人類が楽園で暮らす頃には「種の保存はレーベンエルベに委ねられて」いるはずです。(アリア父は楽園実現前に亡くなっています)


では、第十二の楽園が崩壊した「クローンによる種の保存の研究」はレーベンエルベによるものなのでしょうか?そうではないと考える理由が3つあります。


1つ目は、もしこのやらかしがレーベンエルベによるものなら、寓話製造プロジェクトの立案はなかったと思うからです。レーベンエルベ内のみで情報を共有し、「これはダメだったのでやらないように」で済む話です。わざわざ新人類に向けて滅亡因子を回避させようというのは、「過去に人類が同じ過ちを犯したから」だと思いました。


2つ目、レーベンエルベには高度に倫理的な判断はできない、と事あるごとに言及されているからです。また、三大禁忌のひとつに「人類種の学術的定義を勝手に変えてはいけない」があるとのこと。たとえば人間を複製していいのか、複製で生み出された人間は人類と呼べるのか…この判断がつかないと思われるので、レーベンエルベの仕業とは考えにくいです。


3つ目は、サブクエスト「バイバイ ヒューマン」の内容です。主人公たちがロストガイアの拠点とする楽園(スクラップド・エデン)において、どのように人類が滅びたのかが語られました。楽園で生まれた2世たちが中心となり、人格をデータ化して機械の体に移植する技術を確立させたそうです。その動機は、外に出たかったから。

”終わりのないエデンでの暮らし…いつかきっと限界がくると私たちは考えたのだ。(略)大人たちの諦めを理解することができなかったのだ。(略)外への憧れ…そしてこの場所で一生を終えるものかという反抗心が私たちを動かした。(略)エデンで暮らす半数以上が外の世界への帰還を望んでいたんだ。だからか、すさまじい早さで研究は進んでいったよ。”

彼らはガイアダストに耐える体を得たものの、その体に心が耐えられず自我が崩壊してしまいました。これもひとつの楽園での事例ではありますが、人類による研究が絶滅のトリガーだったと明言されています。


(※余談※アリアのキャラクエスト中に、ディアンサスが「君たち人類には人間の人格を移植する技術はない」と言いますが、たしかリガイア組のレーベンエルベは楽園のデータにアクセスできないので知らなかったのだと思います)


以上を踏まえ、「人類は種の保存をレーベンエルベに委ねた」とは大局的な視点のものであり、”月の揺りかごで眠る人類”を託したという意味合いだと考えます。「人類はガイアダストの克服を諦めた(解決をレーベンエルベに委ねた)」も同様です。


地球の楽園に残った人類は最後まで希望を捨てず、自分たちの意思で様々な研究を行い、結果滅びていきました。「バイバイ ヒューマン」に出てくるレーベンエルベは、楽園が滅びる様子をただ見守っていたようです。


『楽園の遺書の断片』にも、「このような事態が継続しないよう、監視員は慎重に経過を観察すること」とあります。”このような事態が継続しないよう”と言うからには、何らかの対策を講じそうなものですが、実際の対応は”慎重に経過を観察する”だけ。観察しているだけでは、事態を止められないどころか悪化もありうると思うのですが…。レーベンエルベの思考回路はちょっと理解できないことが多いです。


次回、ようやく赤い髪の青年の話へ戻ります。


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