水の器: ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(4) ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(4) - 水の器

2023年1月21日土曜日

ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(4)

閑話

棺の国のあれこれを考えたときにこぼれた思考


ガイアダストと赫き病について

ガイアダストは”大量に吸うと”死んでしまう有害物質ですが、地球全土を覆ってもすぐに人類が絶滅するほどの即効性はないようです。レッドクイーンの出現から人類がダストの克服を諦め、楽園が作られるまでにそれなりの年月が経っていた(※)ことを考えると、かなり緩やかな滅びではありますね。

※メインストーリー中、アリア「私がいた頃はみんなガイアダスト無毒化のために戦っていたのに」ガイスト「君のいなくなったあとそれだけの歴史があったということだ」というやりとりから


また、楽園に住んでいたイヴは少女のうちに余命宣告を受け、楽園の外に出た『調査記録』の書き手は”長い旅”をすることができました。病を発症するまでの許容量や、発症してから亡くなるまでの期間にもかなり個人差があるようです。


『調査記録』には「楽園においてきた家族にもこの林檎を食べさせなければ」と書いてあったけれど、家族が患ってから長い旅に出て、まだ生きているのかな…。というか楽園内にいるのに赫き病にかかるっぽい描写が結構あるのはどういうことなんでしょう。楽園のガイアダストバリアは完璧ではなかったのでしょうか。


メインストーリーでは、「楽園実現のために、アリアの両親をはじめ大勢が犠牲になった」と語られます。それがあまりピンと来ていなくて、都市を作るためにそんなに人が死ぬことある?って感じでした。両親が死んだ理由は”臨界実験”とのこと。閉鎖都市のために原子炉が必要だったとして、原発なら(当然危険はあるにせよ人類の既存技術なので)製造時にそこまで犠牲が出るとも思えず、やはりガイアダストバリアを張るためのものだった…?でも結局完成しなくて、2000年後に「殻の楽園構想」を提唱したガイストは完成させている…?


あと、今の地球(ロストガイア)にはガイアダストが撒かれていないっぽいことも気になります。人類が一人残らずいなくなったので撒かれなくなったんでしょうか。主人公たちが滞在を続けるとまた撒かれるんでしょうか。どこかで言及されていたのを見落としたかな…。教えてよジャバウォッキー。



棺ってなんだったのだろう

まずは「棺」の本質、やはり中には人を入れるのだろうという観点から。


楽園の外を旅するにあたり、最も脅威となるのは言うまでもなくガイアダストです。青年は林檎を持っているとはいえ、病を治せるわけではありません。そこで、少しでも吸入を防ぐため、休憩&就寝時に棺を使用した…という可能性はあります。ありますかな?シュールですね。(ひとりひとりが棺をかついで歩く集団の時点で十分シュールです)


なぜその道具に棺を選んだか。


人類は楽園で生まれ楽園内のみで生き、楽園で死ぬ。それが当たり前になった時代です。酔狂な旅人はいても、旅行やレジャーの文化は絶えているでしょう。つまり外泊用の寝袋だとか、野営用の防塵テントだとか、キャンピングカーだとかそういうものはもうなかったと思います。なんなら大容量のリュックすらもないんじゃないかな…。人間が入れて、外で身を守れそうなものが棺くらいしかなかった。


とはいえ棺に入って外気を遮断するだけなら酸欠になってしまいますし、死人を入れる用途の箱に換気/防塵機能はついていないので、自身でちょっとした細工をしたものになるでしょうね。簡単なものなら空気孔と防塵フィルター、動力があるなら空気清浄機のようなもの…。


青年が”不老”っぽい情報から、タイマー制のハイバネーション機能までつけた可能性も考えましたが(それならかついでいく価値は高い)、ハイバネ技術自体がレーベンエルベのものなので、人類がそれを応用したり携帯化したりは難しいかなと思います。後から仲間に加わった人もみんな棺をかついできているので、棺そのものはそれぞれが住んでいた楽園からの持ち出しですし。楽園の滞在期間を考えても、そんなに複雑なものを創ることはできないでしょう。「私も連れて行ってほしい」とか、だいたい出発の前日~当日くらいに言われそうですし。


あと、1日の1/3…毎日8時間のハイバネ処置をしたとしても、50年分の老化が約30年に、30年分の老化なら約18年になるだけなので、これで”青年”の見た目を維持するのは結局無理ですね。(”棺”の旅が20年以下なら、そもそも『調査記録』の書き手が”計算が合わない”というほど若さを訝しむこともないはず。)


まあでもダストを防ぐだけのことなら、防塵マスクや防護服でよかったのでは?さすがにそれらは存在しただろうな…と思ってしまうので、棺で寝ていた説は自分で書いておきながら納得しづらいものがあります。


次は、「棺」を背負う行為こそが重要で、中身はない場合。


ひとことで「棺」と言われても形状デザインはさまざま。現代日本を生きる私が、「棺」と言われて思い浮かべるのはシンプルな直方体です。けれど、もしかしたら青年が背負った棺には、十字架があしらわれていたのかもしれません。


青年の宗教観は知る由もないですが、イヴをチャイルドフッドにした咎を背負い、必ず治療法を見つける誓いをその身に持ち続けるため、比喩でなく重い十字架を背負って旅をした。後に続いた者たちは、赫き病で大切な人を亡くした無力感を忘れないように、または青年と同じくらい決死の覚悟で旅に臨むという決意表明をするために棺をかついだ。かくして青年を首長とする”棺”の国が出来上がった…。というのは、漫画やゲーム内の設定ならアリな気がします。


とはいえ青年の場合、イヴは死んでいないので、イヴのために棺を背負うのはけっこう縁起でもないですね。(まあ縁起は仏教なので十字架とは関係ないですけれど。)


最後に、「棺」を「櫃(入れ物)」の用途で使っていたのでは?という視点。楽園には旅に必要な道具なんてほとんどなかっただろうな、からの派生です。


私の考えでは、青年の旅には治療薬を完成させるという目的がありました。なので、棺に研究機器や資材の一切合切を入れて持ち運んでいたら面白いな、という想像もしていたのです。さすがに重すぎて無理かしら、でも林檎は絶対に必要だし…と考えた時、鉢植えの林檎を入れていた可能性は捨てがたいなと思いました。


『調査記録』の書き手に林檎を差し出していますので、青年が林檎を持っていたことははっきりしています。林檎は楽園に入る交渉材料にも使っていた(説を私は採っている)のと、なにより自分が発症した場合に備えて常に一定数は確保しておきたいでしょう。いくら棺いっぱいに林檎の実を詰め込んだとして(そして一切腐らないとしても)、何十年も旅を続け、何十もの楽園で林檎を渡していれば数が尽きてしまいます。けれど実際は、行きずりの旅人に差し出せるほど余裕があった様子です。


そこから考えると、継続的に林檎を生成できる手段があったはず。実のみを持っていたのではなく、木を持っていたのはそうありえない話でもなさそうです。棺ならそこそこの高さの木を入れられて(都合の良い栽培技術もあるとして)、ハーヴェステラ界なら枯れずに何度でも収穫できますしね。


もし健康な人が継続的に食べても大丈夫なら、旅の間の食糧問題も解決です。青年が旅していた頃の地球環境がどの程度終わっていたかにもよりますけれど、今のロストガイアは草くらいしか生えていないし、お魚も汚染されて食べられないので。


それに、新しい”棺”の仲間が入っても、林檎なら接ぎ木をしてあげるだけで増やすことができます。みんなが自分のぶんの林檎を持っていたなら、安心して旅を続けられそうではないですか。食糧にも薬にもなる林檎を、もし青年しかもっていなかったら、道中で血まみれのサスペンスが発生したかもしれません…。


なぜ林檎の木を運ぶのに棺を背負ったかは、寝具説同様「中で林檎を育てられそうなくらいデカい箱物が棺しかなかった」でも、「決意のために背負った棺を有効活用した」でも通る…かな?


私の想像ではこのあたりが限界です。


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