水の器: ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(3) ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(3) - 水の器

2023年1月15日日曜日

ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(3)

赤い髪の青年はいかにして”棺”の首長となり、楽園の扉を開いたのか。その想像を書き連ねる前に、少しだけ他の書物にも触れる必要があります。

■プロジェクト凍結のお知らせ(事実)

■楽園の遺書の断片(事実)

■楽園の終わり(事実を利用した創作)


それぞれの詳細は後のポストで見ていきますが、これらは地球の人々が楽園で暮らし始めた後、そこで何が行われていたかを垣間見ることのできる書物です。内容に目を通すと、少なくとも100箇所以上の楽園で、何らかの研究が行なわれていたことがわかります。

(4つしか明らかにならない状態でそう断言してよいものかは悩みますが、ゲーム内で示された情報が同系統の4つのみですので、正しいものとして進めます。)


『永遠』『増殖』『遡行』『無限』…、求めた手段は様々ながらも、目指しているのは皆一様に延命、人類種の保存。生きるための研究です。「人類は種の保存をレーベンエルベに委託した」とはアリア父とガイストの言であり、事実月の揺りかごには”種の保存”に必要な数の人類が眠っているとしても、地球に残った人類はただ死を待つのみではなかったのです。


赤い髪の青年もその一人でした。イヴの死を受け入れられなかった彼が『永遠』を調べ始め、イヴを月で保存させるよう仕向けた後。当然、次に取り掛かるのは赫き病の治療法を探すことです。その研究がどのようなものだったのか、具体的には書かれていません。しかし『棺の国 調査記録』に書かれていた首長が彼なら、なんとなく関係しそうな表記がありましたね。

”この移動国家の首長としては意外な程若い。……いや 若すぎるくらいだ。成立時期を考慮すると 計算が合わない”

”棺”と呼ばれる移動国家の創立者として、何年も(おそらくは何十年も)旅を続けていたのに、計算が合わないほど若すぎる見た目をしていたという赤髪の青年。彼がもし『永遠』について調べた内容をもとに研究を始め、薬の臨床試験を自分の身体でも行なっていたとすれば、狙ったものか偶然か──”不老”のような効果が発現した可能性は十分あると思います。(他の楽園でも、身体が赤子にまで巻き戻るといったトンデモが実現していたようですし)


見た目に青年と呼べる年齢を18歳~28歳くらいとすると、この間にイヴの一件があり、研究を進め、”不老”となったはずですね。さすがに”不老不死”ではないと思いますが。


そして、彼の手にする薬はなぜか林檎であったことも『調査記録』に書かれていました。


「銀の林檎」と書かれているのが『楽園の終わり』だけなら、まず何かのメタファーなのだろうと考えますが、『調査記録』にハッキリと3度も「林檎」と書かれている以上は言葉通りに林檎だったのでしょう。何かのきっかけで、林檎の成分が赫き病の症状を緩和することに気づいたのでしょうか。そうなると、一般的な育種(品種改良)だけでなく、ゲノム編集も遺伝子組み換えも何でもやっていたでしょうね。銀色になるくらいですし。


ただ、どうしても病を完治させる効果には至らなかったとみえます。だからこそ旅に出たのでしょうから。他の楽園でも何かしらの研究をしているかもしれない、しているはず…それは青年の願望か、それとも確信めいたものがあったのか。どちらにせよ、どうしようもない行き詰まりを打開するため、外に希望を求めるのは自然なことです。


さて、青年が別の楽園にたどり着いても、楽園は外の者に門を開けてはくれません。けれど彼には、これまでに積み重ねてきた研究記録と、病に一定の効果を見込める林檎があります。情報と薬を渡す代わりに、どうかそちらの研究データも調べさせてほしいと交渉したのではないでしょうか。


生命の研究をしている楽園ならば、他国/他手法の研究を絶対に知りたいはず。青年がそうであるように、です。研究内容は機密だとか言っていられるような情勢ではないですしね。また、どの楽園にも赫き病に侵された人々はいたでしょう。


旅立ち直後の青年が持つ林檎にどこまでの効果があったかはわかりませんが、なにしろ終末世界での不治の病です。出自の怪しい薬であろうと、不確実な副作用の可能性があろうと、たとえ死の危険があろうとも─投薬を望む患者はいたと思います。自分が生きるためでなく、遺していく家族のために実験体となるなら本望、という患者もきっと。


かくして、青年は楽園の扉を開いた。


訪れた楽園の数が多くなるほど、青年の持つ研究データは増えていきます。林檎の改良に活かせるものがあれば、その効果も上がっていきます。旅が長くなるにつれ、門を開くのは容易になっていったでしょう。『調査記録』の書き手が”棺”と出会う頃には、「楽園においてきた家族にも食べさせねば」と考えるほどに効果の高い林檎となっているようですから、どの楽園でも歓迎されたに違いありません。


なかには青年の行動に心打たれる者や憧れを抱く者、大切な人を病で亡くした者や思い詰めた者がいて…そうした人々が自分も連れて行ってほしいと願い出た。楽園を訪れるごとに志を同じくする者が加わり、いつしか”国”と呼ばれるほどの人数になった。これが、私の考える棺の国の成り立ちです。


これで『棺の国 調査記録』に書かれた内容については、ある程度の想像を導くことができました。しかし、棺に何が入っていたのか…なぜ彼らが棺をかついで旅をしたのかの理由を見つけることはできませんでした。『調査記録』の書き手はそれを気にしなかったようなのが不思議です。


想像だけならいくらでもできますが、説明づけようとするたびこじつけになってしまうものばかり。自分が納得できるような、ひとかけらの事実がほしいところです。背負っていたものが「棺」だった、ということそのものがヒントなのかもしれませんが…。 いつか公式サイドから理由が明かされるといいなあと思います。 自分であれこれ考えるのも楽しいですけどね。