水の器: ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(2) ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(2) - 水の器

2023年1月14日土曜日

ハーヴェステラ:貴重品考察─イヴと蛇と、約束の果実(2)

■棺の国 調査記録・前/中/後(事実)

【概要】

ある者が記した、”棺”と呼ばれた国家に関する記録。

前:

・”棺”とは移動する国家である

・彼の国は大地を東から西へ歩んでいく

・構成員はひとりひとりが棺をかついでおり、まるで幽鬼の葬列のよう

・構成員の出自は様々

・彼らがどこから来てどこへ行くのか調査するため、私は楽園の外へ出た


中:

・”棺”の目的は「楽園の記録」の調査

・ひとつの楽園に滞在する期間は三夜

・次の楽園を目指して移動を始める時には、新たな棺を列に加えている

・楽園の扉は外部の者へ開かれないのに、彼らはどうやって開いているのだろう


後:

・長い旅を経て”棺”への接触に成功した

・国長は赤い髪の青年

・首長としては若すぎる、というより成立時期を考慮すると計算が合わない

・彼は赫き病を患った私に銀の林檎を渡す

・「林檎を食べれば癒やしを得られよう」と言われた言葉に偽りはなかった

・楽園においてきた家族にもこの林檎を食べさせなければ


【他の書物とあわせて推測できること】

・棺の国の長:『蒼き髪の挟まった手記』に登場した赤い髪の青年


【思考】

『調査記録』というからには、フィクションを交えず事実を記したものだと考えます。

2000年も前の記録が奇跡的に全編揃ったのに、肝心の内容があまりわからなかった…!というかこんな日記程度のメモで調査記録とは?さては主人公、手記同様にまた1ページしか読んでないんでしょう。ちゃんと読んでよう。


仕方がないので、あまりにも断片的な記録から得られる情報を好きに考えます。リアリティどころか情報そのものが足りなくても想像力で補完しますよ人類。


前編と中編は、”棺”と呼ばれた移動国家の概説ですね。もはや人の住めない星となりつつある地球で、楽園に定住せず、棺を担いで楽園を渡り歩く人々がいた。その目的は「楽園の記録の調査」。ひとつの楽園に三夜ずつ滞在し、出発する時には新しい仲間を増やしている。だから構成員の出自が様々になるのですね。


この調査記録を書いた人物は、”棺”を調査するために自分の楽園を出たとのこと。記録を読む限りでは、彼の住んでいた楽園に”棺”が訪れたことはないようです。それなのに、旅立つ前から、まるで見てきたかような情報を得ているのは不思議に思います。


書き手自身も旅人となったわけですし、こんな時代にも一定数の旅人がいて、その人から聞いたのでしょうか。けれど中編で、「外なる者へは開かれない楽園の扉をどうやって開けるのか」と書いているので、自国内で旅人に会ったことはないはずです。同じ楽園に住む人が旅をして"棺"を見かけ、帰ってきた可能性もありますが、見かけた時点での”棺”の規模と進み方を考えると時間が合わないような…。


あるいは近くを通った旅人と、”楽園の門の外”で話したのかもしれません。


たとえば旅人は楽園そのものには入れてもらえないんだけれども、近くに休憩や野営に使われることの多い空間があったとか。書き手は、そこを稀に訪れる旅人から話を聞くのを楽しみにしていて、ある時”棺”の話を聞き──もしかしたら写真や動画もあったのかも──、探求心を抑えきれず、遂には自分も旅に出た。ということにしてみましょう。


メインストーリーで、ガイストが「地球楽園構想」の世界地図を示した時、楽園はほぼ横一列に並んでいました。”棺”は、東から西へ楽園を辿る一方向の旅をしています。

「書き手の住む楽園を訪れた旅人が”棺”を見かけていて」、かつ「しばらくその楽園で待っていても”棺”は来ないほど遠くにいる」となれば、現在は書き手の住む楽園から西側のだいぶ遠い位置~地球の裏側くらいにいそうですね…。


中編に書かれた”棺”の目的や、構成員の出自がバラバラである理由などは、書き手が楽園を出てから得た情報のようです。まだ棺と接触していないのに、前編の「どこから来てどこへ行くのか?」に一定の解を得られているわけですね。楽園で三夜過ごしていることや、新たな仲間を加えていくことまで分かったとなると、情報源は”棺”が滞在していた楽園の住人でしょう。


そうすると、書き手は自分の楽園を出てから西に向かったことになります。東に向かった場合、”棺”との距離は速く縮めることができますが、通りがかる楽園にはまだ”棺”が訪れていないため情報がありません。書き手の旅の目的が「調査」であり、”棺”の足跡を追うのもその一環なのであれば、実際に出会うのが遅くなろうとも西回りにしたのは頷けます。


ただ、楽園の住民に聞き込みをしたなら、「”棺”が楽園の扉を開ける方法(楽園に入り、記録を調べる許可を得て、三夜も泊めてもらえる理由)」も聞いていると思うのですが…。やはり外国の者が楽園に入るというのは異例であり、(セキュリティ等の観点から)旅人には口外しないことが通例だったのかもしれません。


とはいえ、前編で示された疑問が中編で明かされているように、中編で示された疑問の答えもまた後編にあるのだと私は考えます。


それでは後編を見ていきましょう。

書かれている内容は大きく2つだけです。”棺”の首長の話。銀の林檎の話。 首長たる赤髪の青年は、”棺”という国家の成立時期を考えると計算が合わないほどに若すぎる見た目をしているようです。単純に考えれば、彼は現首長であっても創立者ではない、というだけの話。しかし、訝しむような書きぶりは、青年=創立者であると聞いたがゆえでしょう。 地球一周の旅に何年かかるのかは、前提やルートによって大きく変わってきます。1日20km歩くとして、赤道4万kmとすると2000日=5年半ほど。とはいえ実際の旅では赤道を一周する道なんてありませんし、”棺”が歩いたであろうパンサラッサ・ジャンクションは楽園構想の前につくられたものですから、楽園だけを通る道ではないでしょうね。 そもそも、”棺”を背負って歩くという時点でもっとペースは遅いはずです。人数が増えればさらに遅くなったでしょう。旅の途中、(サイトカインのような)何らかの敵がいた場合に隠れてやり過ごす時間、楽園と交渉・滞在する時間等々を考慮すると…。”棺”が楽園一周を達成する前に、50年近く経っていたとしてもおかしくありません。 (1日10kmで、実際に歩く道が赤道の5倍あったとすれば54年) 創立から数十年も経っていた場合、いくら若くして首長になったとしても”青年”の見た目なのは不思議に思いますよね。その疑問はひとまず置いて、記録の続きを読んでみましょう。

話は銀の林檎へ移ります。赫き病を患った書き手に差し出された銀の林檎。「食べれば癒しを得られよう」、”その言葉に偽りはなかった”と書ききられた『調査記録』。これはもう、ハーヴェステラというゲームのプレイヤーからしてみれば、青年の見た目以上に信じられない話です。 赫き病とは当然、レッドクイーンから発せられるガイアダストを吸って発症する病気のことでしょう。この『調査記録』が書かれた時代の少し前、世界中の研究者たちがガイアダストを無毒化しようと立ち向かった挙句、「克服は無理」と結論づけました。そして、その研究者たちの知性を凌駕するレーベンエルベ達でさえ、2000年経っても解決方法がわかっていません。 (※メインストーリーで語られた彼らの研究内容は「ガイアダストの散布停止」と「ガイアダストそのもののの無毒化」であり、「赫き病の治療」について言及はありませんが、治療薬/治療法も研究されていたと考えるのが自然です。) 「碩学や高次人工知能が作れなかった薬を、一介の旅人が作り出せるなんておかしい」とは言いません。ノンフィクションであろう『調査記録』に、「林檎で癒しを得られた」とあるのも事実。ただ、本当に治療薬が完成していたなら、地球の楽園がすべて滅びることはなかったのではないでしょうか。 楽園が滅びた理由は赫き病のせいばかりではなかったようですが、そもそも病が治るならば、滅びの原因となった「種の保存の研究」をする意味も薄れるわけで。 以上を踏まえて、青年の持つ「銀の林檎」は赫き病に一定の効果があるものの、まだ完全ではないものと考えました。患者が効果を実感できるなら、レーテのクレスが作っていたような、症状を緩和するものでしょう。そしてこの林檎が、書き手が中編で示した疑問、「”棺”はどうやって楽園の扉を開けるのか」の答えになるのかなと思います。 長くなったので(3)へ。