水の器: いけにえと雪のセツナ、プレイ後感想と考察(14)キール いけにえと雪のセツナ、プレイ後感想と考察(14)キール - 水の器

2016年4月3日日曜日

いけにえと雪のセツナ、プレイ後感想と考察(14)キール


いけにえと雪のセツナ、プレイ後感想と考察の第14回。今回はキールの感想・考察です。設定資料集が発売される4/2のタイムリミットが過ぎてしまいましたが、本記事と次回記事は未読段階の考察であることをお含みおきください。


■天才少年のテンプレを脱し、成功した天真爛漫キャラ


子供だけれど、頭が良くて強力な魔法使い。そういう設定のキャラって本当に、本当によくいるタイプですが、キールはありがちなテンプレにはまらない子だと思っていて、とてもお気に入りです。具体的にどう違うんだ、と聞かれると言葉にするのは難しいのですが…。

「生意気」「子供扱いされると怒るが、子供であることを盾にする」「男キャラにいじめられたーとか言って女キャラに甘える」「年齢相応の弱さを露呈するシーンがある」「一人称:ボク」等がありがちなテンプレだと思っています。私は心が広くないので、特に前半3つがあるとあまり好きになれません(笑)。

ここで言う「生意気」とは、自分が賢いとか偉いとか(背伸びにしろ)思っていて、他人を見下しているような感じです。キールも出会って早々にヨミをいじったりするので生意気に思えるかもですが、決して見下しているとか貶(けな)しているとかではないんですよね。軽口の範囲で。子供らしくストレートな物言いで、楽観的だけど頑固なところがあって、仲間思いで気も遣えて。褒めすぎかな。

よく、天真爛漫なキャラを作りたかったんだろうけど、空気が読めなくて性格が悪いやつと化している、みたいなことがあるじゃないですか。キールは上手に純真な子供感を出せているキャラで、それが新鮮でした。勝利ボイスの「楽勝、楽勝~♪」は声優さんの演技が絶妙でしたね。あれだけを聞くとたぶんウザい範囲に入っちゃうのですが、キールの性格を知っていると微笑ましく思えます。キールが戦闘に参加するのは、里で格好いいところを見せた後なので、余計にそう感じるのでしょうね。


■驚くほど大人びた一面も


”同情?確かにおれは弱いけど、みじめな生き方なんてするつもりない!”

”…。いや、おれの方こそごめん…。”

”みんなと出会ったおかげで決められたんだ。ありがとう。”

”とりもどした本当の力。みせてやるよ!”

”見届けたいんだ。セツナの命の旅を。それで、おれも…おれの命を生きてみたいんだ。”

”おれの…おれ自身の魔力で送る。そう、決めてたから…。聞こえてる?ねえ、兄貴…。”

”おれは生きてみせるよ。取り戻した、この熱い命で。”


印象に残ったセリフを書き出してみただけでもコレです。主人公のエンドが自分から喋らないこともあって、このゲーム内で格好いいセリフを一番たくさん言ったのは、実はキールなんじゃないでしょうか。自分の弱さを認めながらも卑屈にならず、素直にごめんやありがとうを言える人だから、普段の言動にうざさを感じないんですね。

キールが魔力を取り戻してトールを送るイベントはゲーム内屈指の良さで、私は一番好きです。ラスボス前のサブイベントもバトルありの新キャラが3人も出てきますし、こちらも切ない良イベント。テキストの量質ともに、結構優遇されているキャラかもしれません。


■希少種


二十代で生涯を終える短命の一族。体内からほとんどの魔力を抽出することで寿命を倍近くに伸ばし、息を潜めて生きています。

イルに老人が一人もいないのは、このため。親をはじめとする大人たちがすぐにいなくなってしまうので、子供の自立が早いのでしょうか。キールの大人びた一面もそうですし、”おとなびた少女”もいますね。キールを「おにたん!」と呼んで慕うあの子も、すぐに大人っぽくなるのかも。(あの子がピンチの時、「一緒においで」と優しく話しかけるエンドが好きです。選択制ですが。)

ヒドロから寿命の説明を聞いたとき、「何もしなければ二十代で死んじゃうけど、魔力抽出で五十歳くらいまで生きられるようになったんだ」と思いました。けれどそれにしては三十~四十代くらいにみえる住民がヒドロくらいしかおらず、里には”青年”と”女”しかいない…。しかも”青年”が死にかけていて、ラスボス直前には亡くなってしまいます。

もしかして、寿命を延ばして二十代なのでしょうか!?いやいや、それだと魔力を抽出する前は十代で亡くなっていたことになりますし、となるとほぼ子孫も残せないし延命研究も進まないでしょうし。半分しか魔力を抽出していないはずのヒドロが生きてるし。

うーん、イルの里を外から見ると、森の広範囲に住居がありそうなので、ゲーム画面にうつらないところには壮年層の住民達もいるのでしょうかね。あの子供たち3人の親はまだ生きているのかなあ。ふつうの人間が一人もいないということは、少なくともこの里ができて以降は、全員が同種族同士で子孫を残してきたんですよね。


■希少種の正体


”高い魔力と引換に短命というさだめを背負った一族。本来誇るべき魔力の高さは、人々を恐れさせ、時に争いの火種となることが多かった。そのため、現在は人里離れた場所でひっそりと暮らしている。王国時代の歴史を紐解くことができれば、その出生の秘密が明らかになるのかもしれない。”

希少種について、「雪世界の記憶」に書かれていることです。どうも、自然発生的な進化の分岐で現れた種族ではなさそうですね。また、キールの兄トールの説明には、一族は混血種であるとの記述が。ヒドロは「我らは人間ではあるが、は人間よりも魔物のそれに近いと聞く」、キールは「(人間と魔物)どちらでもないおれたち」と言います。

以上から、希少種が「人間と魔物の混血」であることは間違いないでしょう。

ではどういった場合に、人間と魔物の混血が起こりうるのか。ひとつはもちろん、人間と魔物が愛し合って子供ができた場合です。ただ、それなら隠れ里イルの住民が全員とも同じ髪色・耳・尻尾なのは不自然かなと思います。たとえばカブタン少年の種族との子供なら、あんな尻尾はないはず。どんな魔物とでも混血になればこの姿で生まれてくる?とも考えましたが、サブイベントに出てくる3姉妹はまた違いますし。

もうひとつ考えられるのは…、人工的に混血にされた場合

”希少種出生の秘密に迫る王国時代の歴史”とは何を指すのかよくわかりませんが、あの時代に行なわれていたことと言えば、あらゆる研究と実験です。そして「魔物の研究者」によれば、魔物の高い生命力にはの成分が関係しているとみられ、解明できれば人間の身体に効能をもたらす可能性があるとのこと。

…人間と魔物の遺伝子を掛け合わせたり、魔物の血を人体に注入したりする実験から、混血の希少種が生まれた可能性があるのではないでしょうか。

ただ、もしこうした実験が行なわれたとしても、それは王国が滅びた後だと考えています。過去記事のどこかにも書きましたが、クオンが輪廻の闇を「この世に魔物を生み出す元凶」と言うんですよね。つまり、青年が輪廻の闇となる前は魔物が存在していなかったはず。魔物を研究するにも、魔物と混血になるにも、まず魔物がいないと話になりませんから。

王国が滅びた後も、研究する手段と技術を持っている者たち。魔物から世界を取り戻すためという名目で、魔物を超える法石の研究と人体実験をしていた者たち。その研究過程で魔物になってしまった人間がいる組織。希少種の魔力を封じる法石を持ち、3姉妹を幽閉していた組織。


魔導商会。



…クオンのサブイベントで、クオンがこんなことを言うんです。「以前、聞いたことがあったの。魔導商会の会長は個人ではなく、複数の人間の肩書きだと。一方的に個人が権力を握らないよう、複数の人間で管理しているってね。もうほとんど生き残っていないだろうから…、あの魔物になった人が、最後の会長だろうと思っていたけどね。

魔導商会の会長たちは、いつから生きていると思いますか。クオンの記事に書きましたが、彼らは輪廻の闇を生み出した旧王国時代の研究者であると思われます。輪廻の闇が生み出されたのは、もう1000年も前のことです。

ふつうなら、「もうほとんど生き残っていない」レベルの話じゃありませんよね。ユーテスはいけにえを取って生き長らえていましたが、彼らはどうやって?

王国時代の歴史に戻りましょう。雪世界の記憶に寄れば、不老不死の研究がされていたそうです。また、王国の跡地である最果ての地にて、キールとヨミの会話。「(王国では)きっと生命の研究も進んでいたんだろうね。」「寿命を延ばす方法か?そういうのが見つかるといいな。」

魔導商会の会長たちは、旧王国時代に行なわれた生命の研究を応用して命を延ばしていたのではないでしょうか。そこに魔物の研究も加わる。そして、魔物の血が人間の身体に効能をもたらす可能性が示唆される。

寿命を延ばす研究のためか、魔物を超える研究のためかはわかりませんが、どちらにせよ魔導商会は、1000年前から魔物や魔物の血を使った人体実験を繰り返してきたはずです。その過程で、人間と魔物の混血種=希少種が生まれた説、ありえる話だと考えています。

なお、あの3姉妹は実験の産物ではなく、本当に人間と魔物の子かもしれません。そのため、不完全な実験で生まれたキールたちよりも魔力が強く、長生きもできる、とか。魔導商会にとっては非常にレアな存在であり、調べたいことが山ほどあった。だからこそ囚われ、実験の限りを尽くされたのでは…。(クオンの記事ではかなり魔導商会寄りの目線で書きましたが、やっぱりこいつら懲りてないな。)



3姉妹が消えていくたびに駆け寄ってうなだれるキール。クオンと笑ってお別れした後も、やっぱり、駆け寄って肩を落とすキール。かなしいです。泣きわめかない彼が強くて、かえって悲しい。懸命に生きる命の輝きを、私はセツナよりもキールから感じたかもしれません。

どうか、彼と彼の一族に、「当たり前に長く生きられる方法」が見つかりますように。「おにたん!」の少年が、悲しみから大人びてしまうことがありませんように。「人間も魔物も希少種も、みんないつかは仲良く共存できる」とキールが信じた未来が実現することを願います。


設定資料集が発売されてしまった今、それを読まずにトンチンカンな考察を続けるのはやや恥ずかしいのですが、次のジュリオンが最終回なので何とか書き切りたいと思います。